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神戸地方裁判所明石支部 昭和45年(ワ)71号 判決 1971年8月09日

原告

組橋昭信

ほか一名

被告

山口林業株式会社

ほか一名

主文

被告山林運送株式会社は、

原告組橋昭信に対し金九〇万円及び金七〇万円に対する昭和四五年八月一九日以降、金二〇万円に対する昭和四六年八月一〇日以降各支払済まで年五分の割合による金員を

原告組橋美代子に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四五年八月一九日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを四分し、その一を被告山林運送株式会社の負担とし、その余を原告らの負担とする。

この判決第一項は、原告組橋昭信において金二〇万円、原告組橋美代子において金一〇万円の担保を供することを条件として仮に執行することができる。

事実

双方の申立

原告ら

被告らは、各自原告組橋昭信に対し金三七〇万円、原告組橋美代子に対し金三〇〇万円及び原告組橋昭信に対する金三二〇万円並びに原告組橋美代子に対する右金員に対する訴状送達の翌日以降、原告組橋昭信に対する金五〇万円に対する判決言渡の日の翌日以降それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並に仮執行の宣言

被告ら

原告らの請求は、これを棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決

双方の主張

原告ら

一、原告昭信は、亡順の父、原告美代子はその母である。

被告山口林業株式会社(以下山口林業という)は木材の販売業、被告山林運送株式会社(以下山林運送という)は木材等の運送業者である。

二、訴外順は、昭和四五年一月一七日午後五時一〇分頃明石市弓町一二六番地先国道二号線路上で自転車に乗つて信号待ちをしていたところ、被告山口林業所有にして被告山林運送の運転手皆本秀夫運転の普通貨物自動車(広島一え一三―五九TC三二〇―一二、三八五)が発進したために接触されて路上に転倒左後輪で轢過され頭蓋骨粉砕骨折のため即死した。

三、被告山林運送は、右皆本秀夫を雇傭し、その業務の執行中に前方不注視の過失(同運転手が刑事上の処罰を受けていないことは直ちに過失がないと云うことにはならない)によつて本件事故を惹起せしめたものであるから民法第七一五条により、被告山口林業は、右自動車(右自動車は車両の両側面に防護柵を附着装備すべきにこれを欠いていた。)の保有者で、自己のため運行の用に供するものであるから自動車損害賠償保障法第三条により、よつて、生じた損害の賠償責任がある。

四、

(一)  原告昭信は、その葬儀費用として金二〇万円以上を支出した。

(その内容は別紙記載のとおり。)ここに金二〇万円の支払を求める。

(二)  亡順は、事故当時一五才七ケ月(中学三年在学)の男子で、陸上競技の選手として活躍する極めて健康体であつた。同人は高校、大学へと進学し二二才にして大学を卒業し就職する筈である。大学新卒業者の平均年収は年金七一九、四〇〇円であるところ、その稼働年数は四一年である。そして、その生活費を五〇パーセントとして右年間の純収入は金一四、七四七、七〇〇円でこれが中間利息を控除すると約金四八三万円となる。更に、同人の就職までの生活費、学費等を年額金六万円としてこれらを控除すると金四四一万円であるが、うち金四〇〇万円を請求する。

(三)  原告らには、他に二児があるが、亡順は長男であり将来一家の支柱として期待していた。原告らの慰藉料は各金一〇〇万円宛が相当である。

(四)  被告らが、損害賠償の請求に誠意を見せないのでやむなく本訴に及んだ。その弁護士費用として原告昭信は金五〇万円を支払うことを約束している。同額を被告らに対して請求する。

五、以上、原告昭信は、前項(一)、(二)の半額、(三)、(四)の合計金三七〇万円及び金三二〇万円に対する訴状送達の日の翌日以降、金五〇万円に対する判決言渡の日の翌日以降支払済まで年五分の割合による金員、原告美代子は前項(二)の半額(三)の合計金三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降支払済まで年五分の割合による金員の各支払を求める。

六、被告らの主張の第四項の事実は認める。

被告ら

一、原告主張の第一項の事実、第二項事実のうち加害車両の保有者が被告山口林業であること(この点否認)亡順が信号待ちをしていたこと(この点不知)を除くその余の事実、第四項中、大学卒業者の年収がその主張のとおりであること、稼働年数その主張のとおりであることの各事実は認め、訴外皆本秀夫に前方不注視の過失があつたことは否認し、第三項の事実中の被告らに賠償義務のあることは争う。第四項の右摘示以外の事実は不知。

二、本件加害車両は、元被告山口林業の所有であつたが、昭和四四年八月一一日被告山林運送に譲渡した。

三、訴外皆本秀夫は、本件事故現場交叉点手前で赤信号のため先行の大型車に続いて停止した。約二〇秒信号待ちの後右先行車に続いて発進、一・六メートル位進んだ時何物かに乗り上げた感じがしたので左バツクミラーで左後方を見たが異状がなかつたのでそのまゝ進行したところ、後続のタクシーに呼び止められ、本件事故を発見した。同訴外人は、交通法規を守り運転者としては注意義務を怠らず信号に従つて停車し発車したものであつて何らの過失もない。

加害車には構造上の欠陥機能上の障害もなかつた。加害車は昭和四二年以前に製作されたものであるから原告主張の保安基準に反するものではない。

四、被告山林運送は、原告らに見舞金一〇万円を支払い、原告らは、昭和四五年四月金四九〇万円の自賠責保険金を受領している。

双方の援用した証拠〔略〕

理由

一、原告ら主張の第一項の事実、原告主張の時場所において、その主張のとおり亡順が訴外皆本秀夫運転の自動車に轢過されて即死した事実、同訴外人が被告山林運送の被傭者でその業務の執行中であつた事実、大学卒業者の年収が原告主張のとおりであり、亡順の稼働可能年数がその主張のとおりである事実は当事者間に争いがない。

二、

(一)  〔証拠略〕を綜合すると、本件加害自動車は被告山林運送の所有で、且つその運行供用車であつて、被告山口林業のそれではないことが認められる。してみれば、原告らの被告山口林業に対する本件請求は、他にその責任を負担すべき事由につき主張のない本件では、その理由なきものとして棄却を免れないものと云わなければならない。

(二)  右のとおり被告山林運送は、加害自動車を所有しその業務のためにこれを運行の用に供しているものであるから、次に述べるとおり同被告において自動車損害賠償保障法第三条但書所定の事項を証明しない限り、よつて生じた損害賠償責任あるものとする。

(イ)  本件加害車は、道路運送車両の保安基準に定めるところによつて車両の両側面に防護柵を装備しなければならない型の車両であるが、その製造時期が以前のものであるから除外されていたものであること(このことは被告も認める。)。

(ロ)  〔証拠略〕によれば、加害車は停止信号によつて、前車に続いて、歩道の縁石から二メートルの間隔を置いて停車し、進行信号によつて真直ぐに発車進行したことが認められる。

(ハ)  乙第五号証によれば、被害者順は、停車している車両の左側を進行して加害車の後輪附近に倒れ込んだ。これと同時頃に加害車が発進したため、被害者はその後輪に轢過されたことが認められる。

(ニ)  〔証拠略〕によれば、次のことが認められる。進行信号によつて前車に続き発進したところ、直ちに何物かに乗り上げたシヨツクを感じた。左バツクミラーで確かめたが異常は発見できなかつた。発進の際は前方以外は確認していない。

以上の事実によつて見ると、加害車両の運転者としては、自車の前後左右を十分確かめた上で発進運行すべきである。特に加害車両には防護柵もないのであるから、側方を進行する単車や自転車に配意し十分その安全を確かめるべきである。

加害車の運転皆本秀夫は前方のみを見て右注意を怠つた。

また、防護柵を装備すべき義務を免除されているにしても、それは製造時期によつてであつて、本件の如く、それが装備されていなかつたことによつて直接事故惹起の原因となるにおいては、やはり構造上欠陥ある車両と云い得る。

従つて、被告山林運送においてその責任を免れるに足る十分なる証明を尽したとは云い得ない。

三、

(一)  〔証拠略〕を綜合すれば、亡順の葬儀の費用として金二〇万円以上を費したことが認められる。

(二)

(イ)  〔証拠略〕を綜合すると、亡順は、当時十五才七ケ月で中学三年生の健康な少年であつたこと、そして、更に高校、大学へと進学し得る能力を有し、家庭的にも可能な環境にあつたことが認められる。

(ロ)  大学新卒者の平均給が年金七一九、四〇〇円であつて、その稼働時間が四一年であることは被告も争わない。

(ハ)  原告は、その生活費が五〇パーセントであることを認めるので

(ニ)  これによつて計算すれば

<省略>

(ホ)  原告らは、亡順の大学卒業までの生活費等を年六万円の割合で七年間金四二万円を要すると主張するので、誠に社撰な計算ではあるがこれをそのまゝこゝに認める。

結局、原告らの主張する金額の基礎について必ずしも正当と断定する程証明されているとは考えられないが、その請求するところは合計金四〇〇万円であるからこの額を下らないことは裕に認められるので、右の基礎について更に分析することを省略した。

(三)  本件事故の態様、原告らの生活情況から考えて原告らの蒙つた精神的損害は各金一〇〇万円を下らないと認定する。

(四)  本訴について、原告らが弁護士に委任していることは明かであり、〔証拠略〕によれば報酬等として金五〇万円の支払を約していることが認められる。この債務負担も本件事故と因果関係があり、特に、被告の態度から見て本訴を提起し、弁護士にこれを依頼することも当然である。しかし、本訴の内容からみてその金額は多額に失し、金二〇万円を以つて正当とする。

以上原告昭信につき金三四〇万円、原告美代子につき金三〇〇万円が原告らの求める賠償請求額である。

四、ところが、当事者間に争いのないところによれば、原告らは既に昭和四五年四月に自賠責保険金等合計五〇〇万円を受領していることが明かである。これらは、両原告らの損害に平等に充当されたものとみなす。

五、よつて、原告らの被告山林運送に対する請求は、原告昭信につき九〇万円、及び金七〇万円に対する訴状送達の日の翌日であること記録によつて明かな昭和四五年八月一九日以降、金二〇万円に対する判決の日の翌日である昭和四六年八月一〇日以降各支払済まで年五分の割合による金員、原告美代子につき金五〇〇万円、及びこれに対する右訴状送達の日の翌日である昭和四五年八月一九日以降支払済まで年五分の割合による金員の各支払を求める限度でこれを認容し、その余の請求を棄却する。

なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原勝市)

組橋順 葬祭関係費用集計

<省略>

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